ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


ああ――…

馬鹿だな。


何で今まで気づきもしなかったんだろ。


あたしだけしか出来ないこと、あるじゃないか。


そう、あたしが櫂に出来るたった1つのこと。



「……ねえ煌。こんな時不謹慎かもしれないけれど、


櫂がもし死んでしまうなら――

あたしは果てまで追いかけて櫂を叩き起こしに行くよ。


あたし、護られているばかりのお姫様なんてガラじゃない。


いばらに絡まれ動けない…いばら姫を助ける王子様の方が性に合ってる」



「はあ!? お前何言ってる!?」



「あたしはいつだって。

いばらを素手でひきちぎってでも、櫂を助けに行くの。


そう――約束していたの。


あたしは待つだけの女じゃない。


だから――行くから」



「ま、待てって、芹霞ッ!!!」


煌の切羽詰まったような掠れきった声。


「煌。あんたの役目は玲くんを助けること。

あたしでは玲くんを助けられないの。


だから――

玲くんを助けられたら、来てね?」



その時はもしかすると――。



考えないようにした。


あたしは精一杯の笑顔を作り、



「煌、玲くんをお願いね?」



駆け出したんだ。


煌の制止を全身で振り切って。



あたしは…

あたしが出来ることをするんだ。



それがあたしの――

"生きている"証。


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