ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「馬鹿者めがッッ!!!」
突然、緋狭様の怒鳴り声が聞こえて、私は吃驚して振り返る。
振り返った時、既に緋狭様は口を噤(つぐ)み、目を瞑りながら…依然ゆるりと立っていたのだけれど、その美しい顔は不愉快そうに歪められている。
精神遠隔感応(テレパシー)か。
私如きでは気の流れで気配を掴むことしかできないが、緋狭様レベルになれば会話として成立させられるのだろう。
相手は――
馬鹿蜜柑に違いない。
離れてても、緋狭様を怒らせる…ある意味天才だ。
暫くすると、凶々しいエネルギーの放出を感じた。
それは櫂様と煌が消えた場所。
玲様と芹霞さんが居る場所。
悍しい凶気に、急激に気分が悪くなってきた。
「……桜、向かうぞ」
緋狭様はそういうと、
「はっ!!!」
短い合気をかけ、その襲撃波で血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)を退けた。
吹き荒び…崩れ落ちる輪郭。
外気功のようなものだろうが…
私は此処まで凄まじいものは見たことがない。
その中を悠々と突き進む紅皇は、やはり噂通りに神々しい。
砕け散った門を潜れば、向かってくるのは血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)以外にも…武装した自衛官。
これは…生者か?
緋狭様の手を煩わすこともない。
如何なる武器を持とうとも、私の裂岩糸は敵を容易く切り刻む。
私の…敵じゃない。