ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
芹霞……。
――玲くん。
抱きしめたい僕の芹霞。
気配が無い…僕の芹霞。
――ねえ、玲くん。
君は――
そんなに櫂が大切だったの?
僕という存在は…
君を制する枷にもならなかったの?
思い知らされる。
僕が芹霞をこんなにも好きだったこと。
芹霞がこんなにも櫂が好きだったこと。
馬鹿な僕。
それでも芹霞を諦めきれないなんて。
言ったよね、芹霞。
僕は君を1人にはしない。
君が光の世界に帰れないのなら、僕が闇に沈むから。
僕との関係を、簡単に切ってしまわないで。
切ってしまえるものだと思わないで。
――芹霞が死ぬのは、運命なのかも知れぬ。
認めない。
そんなの絶対認めない。
芹霞は…生き続けるんだ。
今までのように。
「………っ」
身体の…この震えは何だろう。
頭では認めたくない芹霞の"死"を、僕の身体が認めてでもいるのか。
芹霞を喪失した多大の哀しみが、僕を内部から破壊しようとしているのか。
――玲……。
僕の自制心を突き破り…
僕を連れて行こうとしているのか。
――可愛い…私の玲……。
気狂いの…母の声が僕を誘う。
僕は…行かない。
そちら側にはまだ。
――玲……。
僕にはすべきことがある。
諦めてはいけないものがある。
壊れてはいけない。