ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
――玲……。
駄目だ。
駄目なんだ。
ここで崩れては。
――…れ……。
しっかりしろ。
――……い…。
闇に芹霞を奪わせない。
闇を創り出す藤姫と、
闇を煽って拡張させる櫂。
紅皇が櫂を制してくれるなら、僕達は元凶を叩き潰す。
『あははははははは!! 馬鹿な小娘!!! お前が死んでも東京が滅ぶ運命は変わらぬわ。私が手を下さずとも、紫堂櫂は己の呪詛力をも取り込み、渦巻く闇の力を増大させた。全ては愚かなる小娘のおかげだ、あははははッッ!!!!』
――!!!!!!
「玲ッ!!! 心乱されるな、しっかりしろッ!! 結界が崩れるッ!!!」
緋狭さんの怒声に、慌てて僕は集中して結界を強めた。
個々の結界に僕の結界、更に緋狭さんの結界の3重構成は、連携が崩れれば…櫂の風に負けてしまう。
やがて緋狭さんは頷き僕達に合図を送ると、櫂の元に駆けた。
近くに氷皇が結界を張っており、陽斗もいた。
茫然自失状態で、地面に膝をついたままの陽斗。
何故かあの氷皇が…結界を張って護っていた。
煌が何を考えたか、陽斗の元に寄り、何やら怒鳴り……、そして鳩尾に一発拳を入れると、引き摺るようにして連れてきた。
「戦力は多い方がいい。このまま居ても、氷皇の気紛れがなくなれば櫂の暴走に殺される」
そう煌は言った。
「陽斗。芹霞は助かる。いいね? その為に僕達は藤姫の処に行くんだ」
決められた運命など信じない。
運命は此の手で作ってやる。
絶望的な金色の瞳をしていた陽斗は、僕の顔を見るとこくっと小さく頷く。
上げたその瞳には――
微かな…"希望"という瞬きが生まれていた。
僕達は行く。
希望に向かって。