ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~



進むべき世界は荒れ狂っていた。

それが櫂の心なんだろうと思う。


この中に――

櫂と芹霞が居る。


やっぱり俺はヘタレで…

現実を見たくなくて、故意的に…視界に入れないようにしていた。


もし見たら…

俺が崩れちまう。


芹霞が…本当に死んでいると自覚してしまったら、俺…気が狂っちまう。


逃げだと…言われてもいい。


今だけは…勘弁してくれ。



そんな時、崩れかけた陽斗が見えた。


真っ暗な中、その金色は…ぼんやりと、燻るように光っていた。


膝をついて項垂れて。



胸に抱えているのは――


血糊がついた鉤爪。


小刻みに身体を震わせたまま、動かねえ。



――ぎゃははははは


いつも偉そうにふんぞり返っているあの金の男が、打ち震えている。


もしかして――芹霞。


お前、陽斗の鉤爪を使ったのか?


じゃああの血……



「………っ!!!」



お前の…ものなのか?


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