ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「だから……言ったじゃないか。
ボク達……騙されているって……」
この途切れ途切れの声は、遠坂か?
「……よかった。無事だったか」
玲が安堵の顔をした。
「うふふふ。お前達はもう用済み。闇に消えて塵とおなり」
「な、何だこれは……うわあ!?」
「やばいッ!!!」
俺達は地下室に踏み込んだ。
魔方陣から立上る白い光。
俺は緋狭姉の腕環で炎の壁を作って弾くと、陽斗が素早く2人を引き寄せ、玲が月長石の力で2人を治療する。
「――ッ!!!」
やはり本拠地からの力は凄まじい。
気を抜けば、意識を持って行かれそうになるほどの、濃い瘴気が充満していた。
藤姫は余裕の顔で、ぶつぶつと何かを唱えてやがる。
俺達を阻む…見えねえ壁みたいな障壁のエネルギーが凄まじい。
石だ。
魔方陣だ。
怪しげなオブジェが、藤姫の呪文の力を…増長させている。
陽斗が鉤爪で、魔方陣の中心に立つ藤姫を引き裂こうとした。
だが藤姫に行き着く手前で、いとも簡単に弾かれる。
何度も何度も。
緋狭姉の炎も見えねえ壁に弾かれ、不自然な角度で跳ね返る。
その向こうに居るのは、薄く笑う女。
こうなることを見越しているような、不快すぎる嘲笑が癪で。
幾ら振るっても、俺の偃月刀も駄目だ。
玲の電気の力でも跳ね返される。
藤姫はおろか、魔の中心に…近付けねえ。
そこに見えているのに…
腹立つ笑い声が聞こえるのに…!!
焦る。
俺達一同に、焦りが走る。
ああ、くそっ!!!
やはり、駄目なのか!!?
諦めるしかねえのか!!!?
これだけ人数揃って、無駄に終わるのか!!?
こんな女に敵わねえのか!!?
だけど――
諦めるわけにはいかねえんだよ。
芹霞がかかってるんだ。
この女も、この女が作った魔方陣も。
芹霞を引き込む闇を生むモノである限り。
芹霞の蘇生に邪魔なモノである限り。
潰しに行くしかねえんだよ、俺達は…俺は!!!
戻る気はさらさらねえ!!!
俺達は――
何の為に此処に居ると思ってるんだ!!!
何の為に身体を鍛えて来たんだよ!!!
「気が済んだのなら…お逝きなさい。
愚かな愛諸共…木っ端微塵に」
藤姫の目が――
真紅色に光った。
凶々しい攻撃性を宿し、呪文を唱え始める。
更に濃くなる瘴気。
肌に突き刺さる殺意。
どうすればいい?
突破口は何だ!!?
誰もが同じ事を考えている。
このままだと、俺達は――
「あれ…桜は?」
ふと気づけば、桜が居ねえ。
「まさか――」
あいつ…
逃げ…
「逃げるわけねえだろ、
この腐れ蜜柑がッッ!!!」
俺の真上から声がした。