ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
――――――――――――――――――――――――――――……


「――坊ッ!!!」



目の前に、芹霞の瞳があった。



吸い込まれそうな程…

神秘的な黒い瞳。


夢を見ていたのか、俺は。



芹霞がいる。


芹霞は…

生きているじゃないか。



思わず微笑んだ俺に…


パシンッッ


頬に痛みが走った。



「坊、目を覚ませッ!!!」



違う――。



芹霞じゃない。



これは――。



「坊、8年前同様、私が少しの間芹霞の命を繋ぎ止める。

芹霞の中の、血染め石の名残を膨張させる。

この闇の磁場に、芹霞が引っ張られることがないよう、お前は血染め石を使ってこの場を治めて、藤姫を叩き潰せッ!!!」



嫌だ。


俺は芹霞の側にいたいんだ。



離れたくないんだ。



頭を横に振り続けながら、


芹霞だった骸を…

しっかりと抱く俺。



破裂音。



緋狭さんの強い平手が、俺の頬に入った。



「煌も桜も、回復した玲も金も既に藤姫の元に行った。

お前は、まず闇が蔓延(はびこ)るこの場を治めよ。

この闇は、血染め石の力がなければ無秩序に拡大するばかりだ。

今なら間に合うのに、お前はみすみす…芹霞を闇に堕とす気かッ!!」



"今なら――"


< 949 / 974 >

この作品をシェア

pagetop