青空、ハレの日☆奇跡の条件(加筆修正中)
 クヲンが人目を忍ぶように自宅であるアパートに帰ったのは初めてだった。

「独り暮らしされてるなんて偉いですねぇ」

 対してマリィの反応は実にマイペースなものだった。

 トイレとバスルームこそ別々だが、台所とセットの八畳ワンルーム。
 中央に長方形のテーブルと端に冷蔵庫と衣服箪笥がある他には何もない殺風景とした空間だ。従ってここにも電話はない。

「そうでもねぇけど。色々事情があってな」

 言いながらようやく落ち着ける場所に帰って来たクヲンは、テーブルの近くに腰を落とす。自分の定位置だ。

「まぁ、座れよ。座布団ないけど」

「ざぶとん?」

 「何ですか? それ」といった様子のマリィだったが、ひとまずクヲンに促されて彼の向かい側に座る。


 そして沈黙すること数分。


(間が持たねぇ!)

 クヲンが心の中で絶叫していることなぞ知る由もないマリィは、何もない殺風景なこの空間がさぞ珍しく見えるのか、来たときからずっとキョロキョロしている。

 とりあえずクヲンは咳払いをひとつして気持ちを落ち着けた。

「それで、お前、どこから来たの?」

 マリィはやっとクヲンに視線を合わせて一言、

「……わかりません」

 と答えた。思わず目を見開くこしか出来なくなるクヲン。

「……もしかして、記憶喪失ってやつ?」

 やっと出た言葉でクヲンがそう言うと、マリィはまたも小首を傾げた。

「う~~」

 クヲンは頭痛を覚えたかのようにこめかみを押さえながら黙考した。

(訳わかんねぇけど……。どのみち放り出すわけにもいかないよなぁ)

 一度助け舟を出しただけに途中で放り投げるのは後味悪い。
 かといって画期的な解決法がすぐに思いつくかというとそうではない。
 悩んでいるうちにクヲンは、テーブルに置いたコンビニの袋が目に付いた。

「あぁ、とりあえず夕飯・・・・・・。冷蔵庫に材料はないし、もう一度コンビニ行ってくるわ。お前の分の夕飯、買ってこなきゃいけねぇし」

 そう言って立ち上がると、マリィは「あ、大丈夫ですよ」と呼び止めた。

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