青空、ハレの日☆奇跡の条件(加筆修正中)
 移動を開始して数十分。

 拍子抜けするくらい順調に三人はジョーのアパートに進めていた。

 見通しの良い開けた道と、疎らにせよ人がチラホラ歩いているのが結果として良かったのかもしれないが、ジョーに至ってはあれだけしつこく感じていた視線すら綺麗サッパリなくなったことに、逆に違和感をもった。

 安心して良い状況のはずなのに嵐の前の静けさに思えて仕方ない。

 これは、空兎や仙太も同じ気持ちだった。

 先程の倉庫内とは違い、緊張が続き、喉が渇く。

 全ての感覚が自然と敏感になり、僅かな物音や気配にも心臓が跳ね上がりそうになる。

 現に三分程前、キィの何気ないひと鳴きに空兎が悲鳴を上げて鞄を放り投げそうになった。それを仙太が全力で止めたのは語るまでもない。

 梅雨入り前なのにやけにジメジメする空気は重苦しく、空兎の呼吸は乱れていた。

「大丈夫ですか?空兎ちゃん」

「心臓が口から出そうっす……」

 空兎の様子を気にしたジョーが話しかけると、空兎が肩で息をしながらそう返した。

(どこまで緊張してるんだよ……)

 仙太も気を張りつめてはいるものの、空兎ほどではないなと自覚した。

「もう少し頑張ってください。そこの駅を抜ければ間もなく僕のアパートですから」

 そう言ってジョーが真っ直ぐ指差した方向、確かに三百メートル程先に駅が見えた。

「う、うす!そういうことなら!」

 空兎の目に若干、光が戻る。握り拳を絞めて気合を込めると、駅に向かって猛然と駆け出した。

「はぁ……」

 爆走する空兎の背中を眺めながら、仙太が何か言いたそうな溜め息を吐いた。
 その横でジョーがクスクス笑いながら仙太に告げた。

「やっぱり空兎ちゃんはいつも全力で元気ですね」

「まぁ、こっちは疲れますけどね」

 苦笑しながら仙太は返す。その表情に隠された仙太の気持ちを悟ってのか、ジョーが唐突に言い始めた。

「多分ですけど、仙太くんが近くにいるから、空兎ちゃんはいつも元気でいられるんだと思いますよ」

「え?僕が?……何でですか?」

「ヒーローの勘です」

 勘と言っておきながらその笑顔は自信に満ち溢れていた。
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