青空、ハレの日☆奇跡の条件(加筆修正中)
 立ち上がってジョーに駆け寄る空兎。池のように溜まった血に制服が汚れようとも構わず、ジョーに抱き寄り、懸命に呼び掛ける。

 その様子を仕込み刀を手にし、背筋が真っ直ぐ伸びた老人が見下ろしていた。

 仙太は少し離れた位置で、ジョーとその老人を交互に視線を動かしていた。

 呼吸が苦しい。目の前で起きた惨劇のショックで体が動かないのだ。

「……さすがに致命傷のようだな」

 跪いているジョーに向けて老人が言い放つ。

 空兎を転倒させた責任に苛まれていた時の声の面影は一切ない。冷たく冷徹なトーンだ。

(何者なんだ……!?)

 見た目の年齢に反して背筋はしっかりしており、先程の動きも俊敏だった。

 背格好もどこか不自然に感じられることから、鍛えている老人というより、老人に変装している何者かという方が自然な感じがした。

 けど、それを詮索している場合ではないことに仙太は気付いた。

 老人と空兎の距離は目と鼻の先。

 老人が再び杖に仕込ませたその刃を振るえば空兎は───


 それを考えたとき

 刃を伝う赤い筋を見たとき

 不思議と、仙太の体は動いた。


 仙太は空兎と老人の間に割って入った。視線は真っ直ぐ老人の目を捉えている。

 人一人を刺したにも関わらず動揺した素振りは蚊ほども見せない。こういうことに慣れている人間の目……この目を仙太はどこかで見たことがある気がした。

「震えているな」

 不意に老人が口を開く。起伏のない、不自然なまでのしわがれ声だ。

「……恐いんですから、当たり前ですよ」

 仙太は自分の気持ちを包み隠さずにさらけ出した。
下手に隠せば重圧になって逆に辛い。初めから自覚していれば幾らか楽なのだ。

「素直な奴だ。長生きできる」

 目の前で物騒な刀をちらつかされた状態で言われても説得力ないだろう、と仙太は思ったが口には出さなかった。
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