青空、ハレの日☆奇跡の条件(加筆修正中)
 仙太が様々な思いを馳せていると、クヲンがフェンス越しに何かを投げ入れてきた。

 カン、カン、と小刻みに聞こえる金属音の正体は鍵だった。蒼い“鍵”ではなく、銀色の鍵だ。

「俺のマンションの鍵だ。あのマンション、お前にやるよ………余計な怪我負わせてしまったからな」

「こんなの……たいしたことないよ……!」

 仙太はどんな感情をぶつけて、クヲンを睨んでいいかわからなかった。

 フェンス越しにいるクヲンが感情を奥底に隠しているのがわかるから、ぶつけようがないのだ。

 そんなクヲンが不意に微笑む。

 それは、優しくも哀愁漂う笑みだった。

「………それくらいしかできないんだよ………俺が“お前達”にしてやれることってさ……なんか、物で解決してるようでイヤらしいけどよ……………今の俺じゃ幸せにすることすらできないし」

 その言葉に違和感を覚えたのが、これまで沈黙を保って、状況が呑み込めないながらもその場に居続けたマリィだった。

「…………」

 それまで、ボーッとしていた目が真剣味を帯びる。

 今はまだ、沈黙を保ったまま、尚も話しているクヲンを見つめ続けた。

「とりあえず、マンションの名義なんかは勝手に仙太にしとくぜ……それから空兎」

 クヲンに呼び掛けられ、空兎はビクッと体をさらに大きく震わせた。

「ごめんな……そんで、ありがとよ。これで、お前は“奇跡の条件”から外れた。もう狙われることはないから安心しろ」

 それだけ告げると、クヲンは空兎から目を背けた。空兎は何か声を発しようとしていたが、出なかった。

 無理矢理出したら、言葉ではなく……泣き声が出そうだった。

 目と唇に触れていた指をギュッと握り締め、胸の奥から溢れそうな気持ちを抑え込もうと躍起になる。

 傍らにいる仙太が居たたまれなくなり、ここまで空兎を追い込んだクヲンに、ついに怒りの感情を込めた視線をぶつける。

「………クヲン、君の目的は何だよ?」

 低く、攻撃的な声でクヲンの背中に問う。クヲンは首だけを仙太に向けて答えた。

「“奇跡”を叶えるため以外ないだろ?」

 その声もどこか攻撃的だった。




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