青空、ハレの日☆奇跡の条件(加筆修正中)
「それじゃ、おじさん。アタシ、そろそろ行くね!」

「何処に行く気だ?」

 その質問に、空兎は楽しそうに答える。

「今ね、鬼ごっこの最中なの。アタシが鬼だから捕まえないと!」

「……それは、一度君が捕まったということ……“ハイパー鬼ごっこ”という勝負に敗北したことを認めるのだな?」

「……え?」

 驚きと、“敗北”という言葉のショックが同時に訪れた。

「知ってたんだ。アタシのこと……」

「ここで出会ったのは偶然だがな」

 その偶然が良かったことなのか、それとも悪かったことなのか、判断しがたい複雑な面持ちで男は目を伏せた。

 それから湖の方へと視線を向けて再び口を開く。

「君にとっては、納得のいく終わり方ではなかっただろうな。君の仲間を人質にして君を降伏させるという手段を部下に命じたのは私だ」

「ってことは……おじさんが隊長か」

「君の言葉で言うなら、そうだろうな」

「じゃあ、アタシと同じだ」

 空兎も湖の方を向いた。

「ねぇ、なんであんな……って、訊くのは野暮だよね。もう、分かりきっていることだし。でも、これだけは教えて……」

 空兎はそこで言葉を区切ると、男のほうへと目を向けた。

「今の話……おじさんが起こしたい“奇跡”の話は、本当?」

 心地よい、木々が揺れる音と風にせせらぐ湖の音だけがしばらく二人の間を支配した後、男は答えた。

「私の嘘は、すぐにバレてしまう」

 男は豪傑を思わせる風貌の中に潜む穏やかな瞳を空兎に見せた。

 彼女は口元の笑みを少しだけ広げ、

「みたいだね」

 と、少しの憂いを秘めた目で返した。
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