青空、ハレの日☆奇跡の条件(加筆修正中)
 時を少し遡る。


(わりぃ、マリィ。……お前を人間にしてやりたかった)

 銃声が聞こえた瞬間、クヲンは全てを諦めた。

 ここで自分は終わるのだと確信した。

 だが、どうだろう。

 一瞬、焼けるような熱さは感じたものの、弾が当たったという痛みがやってこない。痛覚が一瞬で麻痺してしまうほどの激痛なのかとも思ったが、不自然さが否めない。クヲンは恐る恐る自分の腹を触った。

 被弾した手ごたえはなかった。

「……………運が良い奴め」

 灰山がぐったりとした愚痴を零すと、クヲンは「どういうことだ?」と尋ねた。すると彼は、気だるそうに拳銃を見せた。それを見せられてもクヲンにはピンとこない。

 灰山は種明かしを乞われる前に話した。

「弾丸の火薬の量が足りなったのか……それとも湖に落ちたとき薬莢の隙間に水が入って火薬が少しばかり湿気たか……とにかく弾が出なかった。不発だ」

 それを言った後、灰山はタバコの紫煙を吐き出すかのように息を吐いた。

「なんにせよ……お前が無事だってことには変わりねぇ。奇跡だな」

「違ぇよ」

 クヲンは間髪入れずに、灰山の“奇跡”の部分を否定した。灰山は、水に濡れた前髪で隠れたクヲンの目を哀れむように見つめた。

「てめぇにとって、“奇跡”は、一パーセントも可能性のないことものが叶うこと……つまり“神杯”でしか起こせないものだと思ってる」

「事実、そうだろ?」

 それを聞いて、灰山は深い溜息をついた。

「皮肉なのかもしれねぇな。“奇跡”を追い求めているてめぇが“奇跡”そのものを信じていないとは」

 そして、しばしの無言が流れた。

 その間も灰山はクヲンを見据えているが、クヲンの目は前髪に隠れていてどこを見ているかは分からない。

 やがて、クヲンがか細い声で灰山に尋ねた。
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