ピストルと彼的論理観
「つまり、君が恐れているのは、人が殺せなくなったことではなく、人を殺すことなんじゃない?」
長過ぎる程の沈黙の後で呟いた“彼"の声は、あっけらかんとしていました。
そして、思いつめたように出されたローズヒップティーに口を付けるわたくしまでも、あっけらかんとさせました。
「…けど、人を撃つのに信念や目的なんて必要ないんだよね。引き金を引けばいいだけ」
わたくし達は、決して人の命を軽んじてるわけでも、死ぬのが恐くないわけでもないのです。もし、そうだったならこんなに悲しい気持ちも悩ましい思いも知らずに済んだはずですから。
殺すことが楽しいわけでもないのです。それなら人を殺すための得物に、銃を選んだりしませんでした。
「君が感じてる恐さを僕も感じてるよ、いつも」
“彼"お気に入りの真っ白な部屋で、お気に入りのソファーに沈む“彼自身"は、殺し屋ではありません。
「殺し屋じゃなくても、人は殺せるのさ。フォークやペンやハサミでだって、人を殺すことはできるからね」
そう“彼"は、わたくしが殺し屋と知った上で傍に在ってくれる唯一の人間なのです。