旋律の紡ぐ物語
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家に帰ると窓に灯りがともっている。
ドアを開ければ夕食のいい香りがする。
「奏真、お帰りなさい」
帰りを待っててくれる人がいる。
「エイダ、ただいま」
雨の音が家の中まで聞こえる。
エイダに出会った日もこんな雨の日だった。
あの日俺が勤務を終えて帰る途中、傘もささずに雨に打たれてたたずむ人影があった。
俺は鞄の中に常備している折りたたみ傘を差し出したが、その子は身動ぎもせず、一言も発しなかった。
どうしたんだろうかとその子を見ると、不安そうに揺れる黒い瞳が俺を見上げていた。
ふとその瞳に魅入っていたことに気付き、慌てて目をそらした。