赤王伝記
序章
分厚い、深紅の本を怪訝そうに読んでいる少女。
少女の隣には、黒髪を流した端正な顔立ちの青年。
捲るページは古びており、けれども決して破れそうにない。
「駄目。やっぱり私、本は好きになれないわ」
少女が溜め息をつきながら呟いた。青年はそれを見て、困ったような笑みを浮かべる。
「けれど、知識は必要ですよ」
少女の肩は、青年より一回り小さい。その肩越しに、少女は青年を不満げな顔で覗き見る。
「わかってるわよ。でも、こんな分厚い歴史書なんて、読んでも面白くないわ」
「それは最後まで読まなければ、わからないことです」
いくら不満をぶつけても、青年はその穏やかな笑みを崩すことはなく、余裕の面もちで少女を正す。
それがまた、少女の不満を募らせるのだった。
「わかるわよ。だって結末は……」
「そこに至るまでの、中身が大切なのではありませんか?」
言い終えないうちに切り替えされる。少女は思った。この青年は、王である親よりも厄介だと。