赤王伝記
「何故、レッドファリンが中央国になったかは、ご存知ですか?」
何も言わず、少女は首を横に振る。ジッと文字を追うよりも、青年の声を聞く方が合っているのか、集中している。
「これはレッドファリンが頂点になるに至った話です」
青年は椅子を引き、長い机に両手を乗せ、語り出す。
「太古から、魔力と霊力は互いに打ち消し合う、対立する力でした。しかし今より昔、霊力を極みまで高めた霊師(りょうし)と名乗る黄垂の者が、その頃未だ頂点でなかったレッドファリンの王と合い見えたのです」
いつの間にか、少女は頬杖をついていた。が、その赤茶の瞳は真剣そのものだ。
「結果、霊師は負けました。赤王の赤い魔力には、極みまで霊力はあろうと勝てはしない。霊力は魔力に劣ると、その時発覚したのです」
正確に言えば、赤王の魔力にのみですが。と青年は付け加えながら、少女の赤い瞳を見つめた。曇りの無い純粋な目を。
「赤王は脅威となり、誰もが恐れました。そしてレッドファリンは国々の中央国へ、国の均衡を保つようになりました」
青年が少女の真っ直ぐ伸びた前髪を横に分ける。
「赤王の一族の目が何故赤くなるのか、それは魔力の強さにあります。そして何故赤王の一族は子を代々一人しか生めないのか、それも魔力の強さが関係しています」
少女の前髪から青年は手を離し、再び両手を机上に置いた。
「今ではレッドファリンが全ての中心。赤王の瞳が赤色であったことにちなみ、我が国は赤で形容され、故にレッドファリンは赤国と呼ばれています。それに合わせ黄垂は黄、グリーンダイトは緑、イーブルーは青、ディブラックは黒で形容され、各々の国や王をその色で表すのです」
少女の前髪は先ほど青年に分けられたが、そのような優しい力では癖が付かず、また元の位置へと戻っていった。
それを見た青年は、穏やかに窓の外を眺める。