− 夏色模様 −




「まお……」


いっくんがゆっくりあたしから離れた。

拘束されていた手首も離され、あたしの体はズルズルと床に落ちていく。


上手く体に力が入らない……。


床に座り込むあたしと目線を合わせるように、いっくんも座り込んできた。


「まお……。 今ので分かったか? まおは“女の子”なんだよ。
だから、男の力には敵わないんだ」


いっくんが手を抜いてくれたのは、あとになって気が付いた……。

いっくんが本気であたしを捕まえたら。 あたしの手首には、アザが出来るはず。


でも、手首には、キズ一つ残っていなくて……。


「まお、もう“怖いこと”しないから、こっちこい……」


両手を広げて、あたしを待っている。


でも、あんなことをされたばかりで……。 ふだんなら、飛び込んで行くところだけど。

今はいきずらい。




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