− 夏色模様 −




いっくんは、あたしを危険から守るためにあんなことをしたんだ。

危機感が薄いあたしにわからせるために……。


自分の身をもって、あたしに教えてくれた―――。


「もうすぐで着くから……。 後ろでおとなしくしてろ」


「ん……。 わかった」


今はただ、何も言わなくていいから……。

こうやって、いっくんといたい。



* * *


「じゃあ、シャワーでも浴びて、部屋で休んでな。 夕飯になったらまた、愛川が呼ぶだろうから」


「ありがとう」


旅館の従業員の目を気にすることなく、いっくんはあたしを部屋の前まで連れて来てくれた。


昨夜、使われなかった布団がそのままだから、シャワーを浴びるだけなんだ。


「じゃっ、夕飯で」


「んっ、あとでね」


部屋の前で、手を振って別れる。


でも、どうしてだろう……。

いっくんは、夕飯に現れないような気がするの―――。




< 128 / 300 >

この作品をシェア

pagetop