− 夏色模様 −
あたしといっくんが耳について話したのは、1度きり。
“――― まおって、どっちの耳が聞こえないんだ?”
“――― な、内緒だよ”
“――― 右。 …… 違うか?”
“――― ッッ”
あの日……。 あたしが退院明けにいっくんに連れていって貰った映画以来、一度も話してない。
でも、ちゃんと覚えてくれているのは……。
「いつも、ありがとうね」
「どうしたんだよ、急に……」
「なんとなーくっっ」
「わけわかんねーやつだなっ」
――― いっくんが優しいから。
そんあいっくんが、髪を掻き上げて、ちょっと笑った。
コンビニまでは、緩やかな坂をまっすぐ下る一本道。
昼間、練習していた体育館の少し先……。