− 夏色模様 −




「…… “旅行?”」


「……」


前田先輩は、笑いを堪えている。

愛川先輩は愛川先輩で、呆れたように頭を抱えた。


「えっ、違うよ、違う! 何言っているの!! 合宿だよ、合宿!」


言い換えてもいまさら遅い。


「まお、夕ごはん。 楽しみにしておきな。 ピーマン、買ってくるから」


「えぇー、やだー! 優ちゃんの意地悪ーッッ!

もぅ、いっくんのバカッ! 変なこと言わないでよッッ」


隣に立つ前田先輩をポカポカ叩いている木下先輩は、顔が赤くなっている。 目には、うっすら涙が貯まっている。


「ハハッ、悪かったって。 ほら、ゴミ捨てに行くぞ」


さりげなく木下先輩の腰に腕を回した前田先輩は、彼氏のようにしか見えない。


木下先輩は、木下先輩で拒否っている様子も見えない。


「ヤバくね!? 木下先輩」


「彼氏っているのか?」


「前田先輩だろ?」


なんて言葉が、ゴミを捨てに行った二人が居なくなってから車内で飛び交った。




< 211 / 300 >

この作品をシェア

pagetop