− 夏色模様 −
「でもさ、前田先輩って“彼女いない”って聞いたぞ」
「あー、それ俺も聞いた」
そうなんだ。 前田先輩には、彼女がいないことになっている。
「だったら木下先輩は?」
「いるんじゃねーの?」
部員たちの会話に俺は耳を澄ませ、盗み聞きする。
「でも、彼氏がいるのに合宿に参加するか? 愛川先輩と桐谷先輩じゃあるまいし……」
「じゃあ、彼氏は無しってことか……」
部員たちの興味は木下先輩に向いている。
チクショーッ!
これじゃあ、木下先輩に好意を寄せるヤツが増えちまう。
じゃなくたって、この合宿は木下先輩に近づけるチャンスだったのに……。 これじゃあ、ますます遠くなりそうだ。
「誰か、お茶二つくれないか?」
頭上から前田先輩の声が降ってきた。