− 夏色模様 −
「前田先輩。 俺、スゲー憧れてた」
「……」
突然話しを変えたのにも関わらず、今日の捺稀はなにも言わない。
いつもなら“なんだよっ”と言い、顔をしかめるのに。
「前田先輩って、木下先輩の耳のこと、知っているんだ」
「そりゃ、仲がいいからな」
「俺…… 前田先輩の位置。 正直ずっと、羨ましかった」
桐谷先輩も木下先輩と仲がよかったが、前田先輩は俺の憧れの先輩。
何度…… 何度“前田先輩になりたい―――” って思った。
前田先輩になれたら、バスケだってうまくなれる。
勉強だって、出来るようになる。
それに…… 木下先輩の隣にいることが出来る。
「でも、耳が聞こえないってわかった時点で、俺…… 前田先輩のように、木下先輩の側に…… いれる自信が、ない……」
「それは、誰だってそうだろ?」