− 夏色模様 −
なんだよ、恋に落ちる機会なんて、めちゃめちゃあったんかよ。
俺より、遥か近くに木下先輩の側にいる前田先輩。
「俺、木下先輩が好きです」
「知っている」
「俺…… 前田先輩に勝ち目ってありますか?」
「……」
桐谷先輩が、黙った。
これは、俺が前田先輩に勝ち目が無いことを…… 意味しているんだろう。
「俺、前田先輩に憧れています。 これは、今も昔も変わりません」
前田先輩は、俺の憧れ。
俺にしたら完璧な存在なんだ。
「俺、ちゃんとわかってますから」
そうだ。 自分自身の気持ち。 これからのこと。 木下先輩のこと。
「俺、戻りますね……」
「あぁ……」
こんな関係。 いい加減、断ち切らなくては……。
俺は旅館に向かって走り出した。