− 夏色模様 −
小さく舌打ちが聞こえた。
その瞬間―――。
「――― ッッ!」
前田先輩に胸倉を掴まれ息苦しい。
「まおがそう言われてどんだけ苦労したか、お前は知らねーだろっ! アイツが学校で1年間何があったかなんて、お前は知らないくせに簡単に言葉にすんなっ!」
グッ――― と、力が加わった。
「アイツ――― まおは、障害者じゃねーよっ。 普通のヤツだ!」
「――― ッッ」
声を荒げて言う前田先輩は、俺を本気で怒っている。
木下先輩の苦しみを知らない俺は、なんてひどいことを考えたんだ……。
胸倉を掴まれて苦しいのか?
それとも、自分の愚かな考えに後悔して苦しいのか?
「まおから好きなら、全部受け入れろよ! 耳が聞こえなくたって――― 全部、全部…… 引っくるめてまおを好きんなれよっ!」