− 夏色模様 −
「樹、少し頭冷やしてこい……。 今のお前、ヒデー顔してっから」
何も言わず、前田先輩は歩きだし…… ピタリ、足を止めた。
振り向き、俺に視線を投げかける。
「まおを本気で好きなら、全部を受け入れろ。 アイツの全てを受け入れられないようなら…… 金輪際(コンリンザイ)、まおに接触するな。 お前のようなヤツが近づけば、まおがただ傷付くだけだ―――」
これだけ言い残し、前田先輩は俺らの前から消えて行った。
残されたのは、俺と桐谷先輩と愛川先輩のみ。
「……」
重い空気が、ただ流れる。
「西村くんは、知っていたの? まおの耳のこと」
この空気に似つかわしくない、愛川先輩の声が響く。
「知ったのは…… 桐谷先輩と前田先輩が合宿の挨拶に来た帰り、二人の会話を聞いたときです。
…… でもあの時は、しっかりとした確証を得ませんでした」