− 夏色模様 −




嘘、だと思っていた。 嘘…… だと。

でも、あの日だ。


「俺、合宿の1日目に体育館に忘れ物したんです。 その時、前田先輩と木下先輩の会話。 聞いてしまったんです」


何も知らずにいた方が、俺は幸せだったのかもしれない。

木下先輩の耳のこと。 何も知らずにはしゃいでいたあの頃が…… やけに遠くに感じる。



「西村…… お前はどうする?」


「俺、木下先輩。 好きです」


そうだ、好きだ。 好きなんだ。


でも……。


「本当に木下先輩の耳が聞こえないって知った時…… 俺。 体から、熱が引いたんです」


スーッと、体の熱が冷めた感じがした。


それは、恋を知る前の…… あの感じだ。




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