− 夏色模様 −
「“耳が聞こえない”って分かった時、熱が引いたんです。 それ以来、前のような感情が感じなくなりました―――」
「しょうがないよ、それは……。 それは、あたしたち…… まおも理解している」
どうしても抜けきれない考え。
“――― 障害者”
「でもな…… 西村」
今まで口を閉ざしていた桐谷先輩が、口を開いた。
「まおちゃんは“障害者”じゃない」
「えっ?」
「病気でたまたま聴力が下がっただけであって、まおちゃんは俺らと“同じ”だ」
そうなのか? 木下先輩は、俺ら同じ……。
手放して、喜んで良いのかわからないけど。
“障害者”でないことが分かったのはうれしい。
「樹が怒った理由。 分かるか?」
今なら、分かる。 あの時、普段から感情を表に出さない前田先輩がなぜ、俺に怒りをあれ程向けて来たのか。