− 夏色模様 −




「愛川っ」


「――― ッッ」


部屋に招き入れた途端。 桐谷に後ろから抱きしめられた。


「お前、今日……。 どうした? 休憩の後から変だぞ」


「なんにも無い……」


桐谷には、やっぱり隠せなかったか……。

たぶん、まおにも隠せていないはずだ。


「嘘つくなよっ。 何があった?」


あたしの耳元で優しく声をかけてくれる。


ねえ、桐谷……。 あたし、不安なの。

この不安。 言ってもいい?




「西村くん、まおを本気だよ」


「西村?」


「うん……」


まおの全てを受け入れてくれるのは――― 前田くんだけ。

まおと前田くんの関係を崩して欲しくないよ。


「樹は樹で今。 いつもみたいな壁が崩れているからな」


前田くんは、誰も寄せつけないような厚い壁を作っている。

それは……。 誰もが感じる壁。




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