− 夏色模様 −




そう言った木下先輩は、一瞬。 どこか、寂しい目をした。


「“出来る”と思っても、実際やってみると、出来ないことがたくさん」


それは、木下先輩自身の耳のことを言っているのか?

それとも、違うこと?

真意は、俺にはわからない。



「周り…… 優ちゃんたちが出来ること。 あたし、出来なくてどうしても時間がかかることが時々ある。

そんな時、いっくんはいつも何も言わずに待っていてくれるだ……。
手を貸すとか…… そんな優しいことは一切しないけど、何も言わず、ただ待っていてくれる」


俺と前田先輩の違いは“ここ”かも、知れない。


俺なら絶対、木下先輩に手を差し延べる。

出来ないなら、手伝ってやる。


でも、前田先輩は違う。

あくまでも、自分でやらせようとする。



「“手伝ってよ!”って、思うときもあるよ? でも手伝わないのが、いっくんの優しさ。
あたしは、きっと…… いっくんのこういった所が好きなんだ」




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