− 夏色模様 −




俺は、何も言うことが出来ない。


「あっ、なんかごめんね。 こんな話ししちゃって……」


「いやっ、聞けてよかったです」


こんな話しを聞いたら余計に――― 木下先輩を好きになる。


「色々、迷惑かけて…… すいませんでした」


「ううん、いいよ。 気にしていないから」


嘘だな。 でも、俺が気にしないように“気にしていない”って言ってくれるんだろう。


「木下先輩は、優しい――― ですね」


「そうかな?」


「前田先輩が、言っていました」


「そっか。 いっくんがか」


前田先輩の名前を出したら、嬉しそうに笑っちゃって……。

自覚しているんだろうか?


俺、木下先輩が好き。 でも、俺は…… 前田先輩を好きな木下先輩が好きなんだ。


「先輩、俺…… そろそろ戻ります」


「あっ、もうそんな時間?
もー、いっくん“ジュース買ってきてやる”って言ったのに、帰ってこないなんて最悪っ」




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