− 夏色模様 −
4日目⇒ さよなら、好きな人。
「ほら、いちご・オレ」
「ありがとう」
両手で大事そうに持つ木下先輩は、本当に嬉しそうに笑っていて――― いつも俺が見つめていた、笑顔。
こんな顔を作り出すのは、前田先輩だけなんだろう。
愛川先輩じゃなくて、桐谷先輩じゃなくて…… 前田先輩だけ。
「俺、バス…… 戻ります」
「そうか……」
「じゃあ、あとでね」
木下先輩は、俺と前田先輩の間に何があったかは知らないはず。
だから、変わらない笑顔を俺にくれた。
「ありがとうございました」
ただ、今。 二人に向かって言いたくなった。
“ごめんなさい”よりも“ありがとう”
意味の分からない木下先輩は、首を傾げる。
何かを感じとった前田先輩は、口角をあげて笑ってくれた。
「それじゃ……」
二人に背を向けて、歩き出す。