− 夏色模様 −

4日目⇒ さよなら、好きな人。





「ほら、いちご・オレ」


「ありがとう」


両手で大事そうに持つ木下先輩は、本当に嬉しそうに笑っていて――― いつも俺が見つめていた、笑顔。


こんな顔を作り出すのは、前田先輩だけなんだろう。

愛川先輩じゃなくて、桐谷先輩じゃなくて…… 前田先輩だけ。




「俺、バス…… 戻ります」


「そうか……」


「じゃあ、あとでね」


木下先輩は、俺と前田先輩の間に何があったかは知らないはず。

だから、変わらない笑顔を俺にくれた。


「ありがとうございました」


ただ、今。 二人に向かって言いたくなった。


“ごめんなさい”よりも“ありがとう”


意味の分からない木下先輩は、首を傾げる。


何かを感じとった前田先輩は、口角をあげて笑ってくれた。


「それじゃ……」


二人に背を向けて、歩き出す。




< 276 / 300 >

この作品をシェア

pagetop