− 夏色模様 −
忘れ物? そんな話し聞いてない。
部員が何かを旅館に忘れたら、必ずマネージャーか桐谷か前田くんか副顧問の平本先生に言わないといけない。
…… もちろん、あたしは聞いていない。
「桐谷……。 知っていた?」
「いや、俺は聞いていない。 たぶん、樹も聞いていないはずだ」
その可能性は高い。
平本先生は、ちょっと用事があって。 最初の方はいなかった。
だから、うちら3人に言っていない……。 と、言うことは。
「木下先輩、今夜。 待ってますから!」
「えっ、あー。 うん……」
人懐っこい笑顔でまおに笑いかけるが、どうやら何かがおかしい。
まおの返事が曖昧すぎる。
「今夜、まおに何か用事でもあるのか?」
「ちょっと木下先輩とお話したいなーって思ったんです」
「別にそれって、夜じゃなくてもいいんじゃねーの?」