夜獣3-Sleeping Land-
家路についている途中。

街灯から離れ、暗闇にも目が慣れ始めた。

仄かに残る暖気を含んだ風は、渚の艶やかな髪を揺らす。

その中で渚が足を止め、僕との距離が開く。

隣に渚がいないと気付き、僕も足を止めた。

振り返ると、身じろぎもせず、笑顔で直立している。

「今日はありがとうございます」

僕自身、何に対して礼をされているのか、よく解っていない。

「何がだ?」

「あなたが時間を割いて、最後まで用事にお付き合いいただいた事です」

僕だけが一方的に利用すれば、関係にヒビが入りかねない。

それを嫌っただけだ。

再び風が吹き、髪が揺れた。

「あなたの協力者として、傍に置いていただけますか?」

瞳は真剣そのものであり、紅く染まっていた。

それを見るに、本心から聞いている事が解る。

先ほどの事でも気にしているのか。

僕と渚を天秤にかければ、僕の方が圧倒的に利用価値が少ないというのに、何故、渚が下手に出る?

本当に、下らない。

「死を考えていた僕を、お前は蘇らせた」

「はい」

「お前が何を言おうとも、蘇らせたからには最後まで逃げられない。だから、下らない事を聞くな」

渚の返事を待たず、僕は背を向けて歩き始める。

距離は開いたままであったが、渚と僕は何事も無く、家に到着した。
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