夜獣3-Sleeping Land-
「渚の全権は催眠術をかけた者に移ったと言っていい」

「そうか」

渚を思い通りに動かせるのならば、何もかも手に入っている。

あの書類も、偽者の可能性があるという事だ。

そして、渚が持っている情報ネットワーク、能力者が相手に流れたとすれば、僕達はすぐにでも終わる。

僕の殺害が未遂に終わった以上、第二段階に踏み出す可能性があるという事だ。

第二段階、それは他の能力者を刺客として送り込む事を意味する。

いや、それ以前に、警察を家になだれ込ませれば、全てが終わる。

渚が催眠術をかけた人間に連絡をいかせると事は早まるだろう。

多少遅らせるのは、許容範囲内に入る。

だが、大幅なズレは失敗と見なし、僕達は終わる。

僕の復讐も遠のく。

それは構わないが、捕縛された後の事を考えると不味い。

そして、闘うだけならば強くなれるはずなのだが、今は違う。

不本意ながらにも、目の前の相場の助けがなければ、僕は復讐を成し遂げられない。

「時間がない。都合が悪くても彼女を呼び出す。お前は、小さく縮こまって、反省しながら渚の面倒でも見ていろ。いいか?余計なことは言うな、余計な事もするな」

「ふん、無駄口を叩いている暇があるのなら、呼べ」

「どこまでも態度のでかい男だ」

相場は従妹を呼び出すために携帯電話を取り出して、廊下を歩いていく。

「くそ、これこそ、余計な時間だ」

だが、渚を放っておく事も、僕には出来なかった。

正義感だとか、愛だとかではない。

放っておけば、更に余計な時間がかかるからだ。
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