夜獣3-Sleeping Land-
「あなた如きのせいで、相場さんは頭を下げているんですよ?」

「だから、どうした?」

挑発に乗るつもりはない。

「神崎!」

相場が頭を上げて、鬼の形相になりながら僕を睨む。

だが、間もなく表情が崩れた。

「頼む、神崎、渚のためだ」

僕の服を掴み、頭を下げる。

掴んだ手が全てを物語っていた。

相場が渚のための覚悟を持っている。

僕にとって、それを無にする事は可能だ。

だが、僕と相場の利害が一致している以上は、無意味に混乱を招いても仕方のない事であった。

「すまなかった」

不本意ながら、僕は松任谷に頭を下げる。

「私に謝られても困ります。悲しんだのは桜子なんですよ?」

「解っている」

「そうやって、人の気持ちを考えず、自分の都合の良い事しかやってないんでしょう?」

「そうだ」

「頭を下げただけで、私は許しませんよ」

頭を上げない。

拳を強く握りすぎていたのか、爪が食い込んで血が流れてくる。

だが、今のままではどうにもならないようだ。

更に、地面に頭をつけ、土下座をする。

「僕は渚を救いたい。だから、お前の力を、使ってくれ」

自分のミスから発展し、渚の脳は支配されている。

暴力で解決出来るなら頭を下げる事無く、拳で敵を粉砕する。

だが、それが出来ない。
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