君のいない理由
 そうやってずっと2匹で暮らしてきて、ある日、いつものように丘を下って街へ出た。

 今日は横断歩道を渡っておばあさんの家へ行く。
 たまたま、走っていた車が止まった。

 信号が赤くなったからなんて、2匹は知らない。

 少し先に、しま猫が渡る。その後ろをぶち猫が渡る。
 よく晴れていて、空は青くて、信号は赤くなった。
 車が動き出したから、しま猫は早歩きをした。
「キーッ」という高い音と、ぶち猫の声と、通りかかった人間たちの小さなざわめき。
 それらを背中で聞いたあと、しま猫はゆっくりと振り返って、ぶち猫が追いつくのを待った。

 何分かたってもぶち猫は来なかったけど、代わりに赤い猫が寝ていた。

 そのあとも、しま猫はずっとぶち猫を待ったけど、待ちくたびれて、先におばあさんの家や、市場に行った。

 それから、また待った。いつもの丘で、ずっと。

 それでもぶち猫は戻らない。
 だからまた、あの赤い猫のいた交差点へ行ってみた。

 そしたら今度は赤い猫さえいない。ぶち猫も、いなかった。

 仕方がないからまた丘に戻った。
 それでもぶち猫はいない。

 しま猫はぶち猫を待った。ずっと待った。

 うす青い空と白い雲は、ずっと同じくり返しで、何度も見た。

 やがて、お日さまが傾いてきて、眠くなっても我慢した。

 空の色が橙になる。
 お日さまは夕焼けを残して山に消える。

 しばらくしたら紺色の空が追ってきた。

 待っている間、しま猫はずっとしっぽを動かして、ここにいることをぶち猫に教えた。
 それでもぶち猫は戻らない。
 しま猫はあくびをした。
「あー」とひと鳴き。
 どこからもあとを追う声は聞こえない。

 なのに、一拍ずつおいて鳴いた。

「あー」と鳴いたあとに、「うー」という鳴き声が聞こえているかのように、しま猫は鳴いた。

 緑の丘の上、「あー」「うー」と、耳の奥で聞こえる。
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