くるきら万華鏡
 口を開けば、泣き出してしまいそうで…


 黙って私も立ち上がり、有坂くんと向かい合う。


「奈緒には言うなよ。」


 左手の甲で口元を拭いながら、そう、一言だけ脅迫じみた口調で言い、有坂くんは勢いをつけるように一旦右腕を少し曲げてから、壁を突いて離れ、足を引きずるようにヨタヨタと歩き出した。


 私は追うこともできず、ただ、遠ざかる、今にも崩れ落ちそうな後ろ姿を、視界から消えるまで見詰めていた。


 あんな有坂くんは初めて見た。


 いつも無邪気に笑って、ふざけてばかりいる有坂くんの、怒ったような、泣き出しそうな、無表情…


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