=寝ても覚めても=【完】
相も変わらず鮮やかな手つきで注射を終え、仁科が見惚れている間に簡単な問診を済ませて、何事もなかったかのように宇治方先生は胸元から煙草を取りだして咥えた。
主はなれた仕草でそこに火を近づけた。
当然のようにその火を受け取り、宇治方先生は細めた眼の上の眉をしかめた。
「ああ、本当に勘弁してもらえないかな・・・嫁に禁煙を言い渡されて、家で吸えぬわ・・・自分の部屋でも爺さんが来るから吸えぬわ。美味しい一服がお前の顔を見ながらでないと出来ないなんて、俺は本当についてない」
完璧な彼なりに悩みがあるらしい。
が、どうでもよい事のように思えた。
「それは可哀想になぁ」
主は嘘のような同情の表情でうなずいている。