=寝ても覚めても=【完】
少女の次は弟だ。
主の痴話(ちわ)話の多彩さは聞いてあきれる。
一服を終えた気配に、仁科は後ろ手を組んでいた手を解き、重たい灰皿を差しだした。
仁科の方など見もせずに立ち上がった宇治方先生は、
「それはいいとして、あんまり仁科を苛めてくれるなよ?」
と言って苦笑した。
名前を呼ばれただけなのに緊張した。
「仲良くしてるよね?宇治方はさすが、俺の好みをよくわかってる」
嬉しそうに主も笑い返しているが、こちらはちっとも主に好かれている気などしない。
出会いからして、最悪。
あの場面を思い出す度に、仁科は死にたくなるのだった。