=寝ても覚めても=【完】


朝からずっと、主はソワソワとしていた。


「座ったらどうですか」

「うん」


そうしていないと呼吸が止まる魚ですとでも言うように、主はぐるぐると豪華な部屋の中を歩き回っている。



諦めて仁科は窓の外を眺めた。

先日切った枝のお陰で見通しが良くなり、遠く弥栄のいる老人たちの詰め所が見えるようになっていた。




あの時捻った左肩は、時間が経つと熱を持ち腫れた。

湿布の匂いにすぐに気がついた主は、『仁科、医者に診てもらえよ』と真剣に言った。


やはり自分は医者だと思われていなかったと、仁科は心から嫌になった。

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