=寝ても覚めても=【完】
痛みはひいたが、心に負った傷は深い。
主にとっては研修医など、自分のところのメイドと変わらぬ存在なのだ。
意地でもこいつがひれ伏すほどの立派な医者になってやろうと思った。
主は歩いていた足を止め、「いや・・」と呟いて天井を仰ぎ見た。
自分の顎を何度か指で叩いて何か思いなおし、再び歩き出した。
「・・・ナオさんが、緊張していても仕方ありませんよ」
「わかっているよ?」
わかっていない。
これは分娩室に入ってしまった妻の初めての出産を待つ旦那の動きであり、たった今同じ動きを本当に分娩室の前でしていると思われるのは主の弟の方なのだ。
あれから何度か面会に来た弟には顔を合わせたが、主はいつも迷惑そうにしていた。