=寝ても覚めても=【完】
仁科は主が降ってきた木の幹に寄りかかって腕を組んだ。
そして朽ちかけた長椅子の隣に座る弥栄に話しかける主の言葉を、遠く聞いていた。
こんな少女に話しても仕方なかろうに。
だが、仕方ないからこそ平気で話しているのかもしれない。
お見舞いの高級どら焼きに齧り付く弥栄の姿は、主の顔に久々の頬笑み与えた。
仁科にはそんな芸当出来やしなかった。
少し少女が羨ましくなり、頬張るその幼い顔を仁科は黙ってみていた。
「自分の子供じゃないと言いやがった。そんなの倫子に言ったらあいつ手打ちにしてくれる」