=寝ても覚めても=【完】
仁科は歩きながら手に持つ資料に没頭していて、避けてくれなければぶつかるところであったらしい。
一秒でも惜しかったが、この人物との会話なら別である。
「そうですか?」
「あの時今の顔だったら、直嗣になんて紹介しなかった」
仁科は唇の端を上げ、目礼した。
宇治方先生からの最大級の賛辞だと思った。
歩き去ろうとする背中に、さらなる声が掛った。
「仁科!研修が終わったら。俺の所に顔出してくれよ」
何の用があるのかはわからないが、それもそう遠くない日のような気がした。