=寝ても覚めても=【完】
仁科は『生きているから死んでない!』と書いた紙の貼られた壁に寄りかかり、腕を組んで主の話が済むのを待つことにした。
「私の田舎では・・・川沿いに桜並木がずっと続いていて・・・・春にはそれがとてもきれいなので・・・私は桜が好きです」
「桜が好きとはなかなか渋いな」
「花の名前なんて、・・他に知らないだけなのですけれども・・・・もぐもぐ」
俯いて食べ続ける彼女に、主は更に顔を近づけた。
それから肘をついたままの指先で彼女の口元の食べかすをはらい、驚いて顔を上げた彼女に悲しげな微笑を浮かべて見せた。
「ねぇ、お前さん・・・俺の事が嫌いでないなら、俺の目を見て話してご覧?」
こんな子供に何を言うのだ、この女ったらしが。