=寝ても覚めても=【完】

主はそこにあった旅行鞄を片手で軽々と持ち上げ、再び歩き出した。

メイドは食べかけの焼き鳥をしっかりと包みにしまい込み、慌ててついてきた。


手首は掴まれたまま。

仁科は混乱していた。


「あの、ナオさん?」


「話は中で聞く。朝からこの調子で、そろそろ座りたい」


そう言われると、主が病人であったことを知っている手前、従うしかない。

船内のこれも豪華な客室まで連れ込まれてしまった。


部屋にはすでに荷物がいくつも積み込まれ、旅の長さがうかがえた。

間に合って良かったと仁科は思った。


ようやく手を解き、主は船の中とは思えないソファーに仁科の着席を促した。

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