君の手が奏でた夢
抱きしめたときでさえ
気付かなかったけど
音羽クンの顔の骨格や
首や肩や胴は、以外に細い。
背が高くて
いつだって笑っている彼は
とても強い人だって
そんなイメージだったのに。
(そんな風に)
寂しそうな表情してるから?
真っ直ぐ見据えた彼は
すこし華奢な存在に思えた。
「学校辛かった…?」
「ううん寧ろ――」
「人に囲まれて騒いでるほうが」
「忘れられていいかも」
黒板の上に掛けられた時計が
淡々と針の音を響かせる。
音羽クンはそれを見つめて
遠い目でそう話した。
「私、あんまり元気だから」
「無理してるのかと思った」
「無理じゃない」
「本当に忘れられた」
「だけど――」
時計から外れた彼の視線は
手元の携帯に向けられる。
「だけどさ」
「この時間になると」
「思い出しちゃうんだ」
「携帯が鳴って」
「今から教室行くって…」
「そんで一緒に帰ってさ…」
「そうだったんだ…」
心の中の気持ちは
時間や人が薄めてくれるんだ。
だけど
染み付いて消えずに
心の中を掻き回すのは――
やっぱり、思い出。