―優等生乱用


「俺の子」



言葉を失う。


うずくまっていた体で


ギュッと枕を抱き締める。




「お姉さんは出産する気なんだ」


つまり父親の秋は嫌でもその人を支えなきゃいけないのね?


そんなの秋の望みじゃないならほっとけばいいのに。



でも、私は知ってる。



秋のことを知り尽した私なら知ってる。



秋は優しい人だ。




「じゃあ愛人のままでいようよ」


秋はフフッと笑う声で返す。


きっと電話の向こう側は困った顔なんだろう。



「ずっとこのままでいようよ」


ただのわがままだ。


「そしたらゆんが幸せにならない」


「私はあっちゃんがいれば幸せだよ」


「ありがと」



沈黙が続いた。


いつもの電話じゃ有り得なかった沈黙。



喋ったら終わりそうで

壊れてしまいそうで

一粒一粒流れてくる涙は正直者だ。



< 52 / 111 >

この作品をシェア

pagetop