猫又は夜に鳴く
「あら~よく来たわねぇ。ささ、上がって」
そう言って母が私達を家の中へと招き入れる。
玄関では父と祖母が待ち侘びた様にニコニコと笑って出迎えてくれた。
それに促されるように玄関に入ると、「お邪魔します」と彼が母にペコリと頭を下げそっと玄関に足を踏み入れた。
「そんなにかしこまらなくてもいいのよ、賢二君」
「いえ、でも今日は大事な日ですから」
母のその言葉に彼は困った様に笑いながら頭を掻いた。
消し炭色のスーツに身を包んだ彼は、私の恋人で……婚約者でもある。
彼は高校の時の同級生で、二年生の時から交際を続けていた。
お互い社会人となり生活も安定してきた今、彼からプロポーズを受け結婚する事になった。
そうして今日、私の実家に挨拶に来ている。