忘却の勇者
サイ賢者の纏わる数々の伝説。それはオレオも知っている。
この国のトップに君臨する最強の魔術師。
顔が見えぬがまだ二十代前半あたりの身体付きに、本当にこの人物が四聖官なのかと疑いたくなった。
けれど信じるしかない。
地形を変えるほどの力を持った人物など、オレオには魔王か四聖官のどちらかしか思い浮かばなかった。
「助けてくれて感謝するが、これはやりすぎじゃないか?」
実質的な国のトップに、コーズは畏縮することもなく軽口を叩く。
オレオがコーズになにか言おうとしたが、それよりも先にサイが口を開いた。
「久々の実戦なのでな。加減をしたつもりなのだが」
加減をしたつもりということは、つまり本気で戦ってなどいないということ。
「にしてもこの威力って……」
再び辺りを見回す。コーズは完全に声を失い、生唾を飲み込んだ。